スタッキングブックケース 誕生の歴史とその魅力

スタッキングブックケース 誕生の歴史とその魅力

スタッキングブックケースは、その独特な積み重ね構造と美しいガラス扉で、現代の住空間にも上質な魅力をもたらす家具です。camoriでもメーカーやサイズなど種類豊富に取り扱いのあるスタッキングブックケース、その歴史と魅力をご紹介します。

組み換えも移動も自在。機能美を追求したデザイン。

現代の私たちが見ると、いくつかの疑問が浮かびます

  • そんなに組み換えできないのに、なぜスタッキング式にしたのか?
  • なぜわざわざ不安定な積み重ね構造を採用したのか?
  • フラップ式ドアとスタッキング、どちらが先だったのか?

これらの疑問を、当時の社会背景と技術的制約から紐解いてみましょう。

組み換えが限定的なのに、なぜスタッキング?

現代の私たちは、パーツごとに組み合わせるモジュラー家具といえば「自由自在に組み換えられる」ことを期待します。しかしスタッキングブックケースの目的は、組み換えではなく「分解・移動・再構築」でした。

起源は、19世紀のイギリスにまでさかのぼります。当時この書棚は、バリスター(法廷弁護士)のために特別に設計されました。
当時のバリスターは、自宅オフィス、法廷、弁護士会館といった複数の拠点を移動しながら働いていました。さらに、ロンドンの裁判所は夏季休廷があり、地方巡回裁判もあるため、季節的な移動も必要でした。
事件ごとに必要な法分野の書籍のみを持参することも多く、書斎全体の本棚を丸ごと移動する必要はありませんでした。

必要な時に必要な分だけ分解して移動。

スタッキングの真の目的は「日常的な組み換え」ではなく、「必要な時に必要な分だけ分解して移動できる」ことだったのです。同じメーカーの同じサイズなら確実に積めるという統一規格の考え方も、複雑な組み換えより確実な積み重ねを優先した結果でした。

なぜ不安定なスタッキング構造を採用?

現代の私たちには不安定に見えるスタッキング構造ですが、19世紀の技術的制約と使用環境を考えると、実は合理的な選択でした。

19世紀の建築環境の特徴

19世紀の建築環境は現代とは大きく異なっていました。天井は現代より高く、床は現代のように平らであることは稀でした。また、現代ほど頻繁な模様替えをする習慣もありませんでした。このような環境では、壁に沿って設置することを前提とした家具が一般的だったのです。

壁面設置が前提の時代。現代とは異なる使用環境でした。

技術的制約と現実的選択

技術的制約も大きな要因でした。精密な金属パーツの量産は困難で、複雑な連結器具はコスト高になりました。木工技術の方が成熟していた時代背景もあり、シンプルな積み重ね構造が現実的な選択だったのです。

さらに、書籍の重量は現代と変わらず重いものでした。堅牢な連結器具を付けると、さらに重量が増し、移動時の負担が大きくなります。移動の利便性を考えると、シンプルな積み重ね構造が最適解だったのです。

シンプルな構造による美しさがあります。

実際のところ、スタッキングブックケースには単体では見えない安定性がありました。書籍の重さが天然のおもりになり、木材同士の摩擦で意外に滑りにくく、壁面への依存を前提とした設計になっているのです。

フラップ式とスタッキング、どちらが先?

この疑問の答えは明確です。スタッキングの需要が先にあり、それに適したドア方式としてフラップ式が開発されたのです。

それまで主流だった観音開きの扉ではスタッキング時に上段のドアが開けづらく、開いたドアが隣接する家具に干渉し、分解時にも邪魔になります。引き戸方式も、当時の技術では精密なレールの仕組みが困難で書籍の重量でレールが歪み、修理・交換も困難でした。

革新的なフラップ式ドア。スタッキング時でも全段開閉可能。

革新的なフラップ式ドアの誕生

そこで革新的な発想が生まれました。上向きに開くフラップ式なら、積み重ねた状態でも全段のドアが開けられます。開いたドアが他の家具に干渉することもなく、分解時にドアが邪魔になることもありません。さらに、開いたドアが本体内部に収納されるスライド構造により、狭いスペースでも使用可能で、見た目もスッキリします。

このフラップ式ドアの開発により、スタッキングブックケースは単なる移動可能な書棚から、実用的で美しい家具へと進化を遂げました。

現代に蘇る本物の価値

スタッキングブックケースは、移動の必要性から分解可能な構造が生まれ、技術的制約からシンプルな積み重ね方式が採用され、使用環境の制約から壁面設置前提の安定性が確保され、機能要求からフラップ式ドアが開発されました。
スタッキングブックケースは、制約の中で本当に必要な機能を追求した結果、時代を超えて愛される名作となりました。

なぜ今、スタッキングブックケースなのか?

現代のリモートワークや書斎文化の復活により、スタッキングブックケースの価値が再評価されています。在宅ワークで書籍や資料を整理したい、限られたスペースを有効活用したい、そして美しいデザインで落ち着ける空間を作りたい。そんな現代人のニーズに、100年以上前のデザインが合致しているのです。

書籍だけでなく、食器や雑貨などお気に入りのものを飾っても。

グローブ・ウェルニッケ社をはじめとするメーカーが生み出したスタッキングブックケースは、単なるヴィンテージ家具ではありません。オークやマホガニーといった堅牢な素材で作られ、今なお現役で使用できる実用性を備えています。

現代の住環境にこそ活かされる機能美

引っ越しの多い現代人にとって、分解・移動・再構築が可能な構造は非常に実用的です。狭いマンションでも壁面を有効活用でき、必要に応じて段数を調整できる柔軟性は現代のライフスタイルにマッチしています。

また、フラップ式ドアの美しさは、現代のミニマルなインテリアとも調和します。開閉時の所作も美しく、日常に小さな特別感をもたらしてくれます。

サイズも形も多様。ライフスタイルに合わせて選択可能です。

スタッキングブックケースの「謎」は、19世紀の社会背景と技術的制約を理解すると、すべて合理的な解決策だったことがわかります。そして現代の私たちにとって、制約の中で本質を見抜く重要性を教えてくれる、興味深い家具デザインの事例といえるでしょう。

camoriでは、そんなスタッキングブックケースを幅や高さ、メーカー様々に取り揃えております。100年以上の時を経てもなお機能する美しいデザインをぜひご覧ください。

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